●サカサクラゲ
エフィラ
プラヌロイド

クラゲを産むクラゲ(シミコクラゲRathkea octopucutata)

今年の販売は終了しましたが、こんなクラゲもいるんだよ、ということで、ご紹介。だいたい実物見たこと無い、って方が多いと思う。そりゃそうでしょう、ものすごく小さくて注意して観察しないかぎり見つからないし、それに普通の人が磯遊びするような夏にはほとんど見られないのですから。この季節(2月〜4月)だけに現れる、早春のクラゲなのです。

写真提供はuiui様。


春一番のクラゲ

意外に思われるかも知れませんが、クラゲ観察やクラゲ採集に一番いい季節ってのは、早春なのです。どうしても海水浴場で出会うミズクラゲ(実は刺さない)やアンドンクラゲ等の印象から、お盆ごろがクラゲのピーク、という印象があって、確かに種類によってはそうなのですが、一番おもしろいのは冬から春にかけてなのです。まだ肌寒いころに吹きっさらしの海岸にでていくのはさすがにクラゲ好きにとっても億劫なことなんだけど、それを押していくと必ずといっていいほど出迎えてくれるのは、この小さなシミコクラゲなのです。愛知県ではだいたい1月頃からよく見るようになって、3月頃にピークになり、5月ごろまで姿を見ることが出来るようです。とにかく多いときは、コップ一杯海水をすくっても数個体がみつかる、というほど。

シミコクラゲってどんなクラゲ?

サイズは最大でも3ミリメートルくらい。傘の部分は花クラゲ目独特の釣鐘型が、ちょっと洋梨型に変形したようなかんじ。よく目立つ8つの褐色の眼点、その近くのそれぞれから数本ずつの触手が出ていて、イメージは同じ花クラゲ目のカミクラゲの超小型版といったところ。口唇が4つに別れて、先端に刺胞瘤ができているのも特徴。
北海道から本州南部の沿岸に普通に見られるクラゲなのに、日本ではポリプが見つかっていない。ヨーロッパ産で観察されたポリプは0.1−0.2mmと非常に小さく、野外ではほとんど発見できないはず。
実はこの仲間にはもうひとつのとんでもない特徴があるんだけど、それは2つ下の「シミコクラゲの秘密」でのお楽しみ。

なぜ早春に大発生するのか

他にもこの季節にはヤムシ(毛顎動物門、2センチくらいで透明の矢のような形)、大量のカイ足類(ケンミジンコの仲間)、それにエビやカニの幼生など、海水がプランクトンの濃密なスープみたい。それを餌にしてるクラゲの仲間が多いのは当たり前とも言えます。シミコクラゲもこの時期を狙って大発生しているように思えます。そういえば、ミズクラゲも水温低下とともにストロビレーションがおこりますが、エフィラとして出てくるのもちょうど今頃だしね。普通の観察ではそんなに感じないけど、クラゲの餌のプランクトンのそのまた餌の、植物プランクトンもこの時期に大量に発生してるそうです。これには物理的なからくりがあって、つまり他の季節が、植物プランクトンの繁殖に必要な要素というのが揃わないらしい。
  • 冬は当然植物プランクトンが必要とする太陽光線が弱い上に日照時間が少なくて、増殖できない。それにあまりに寒い。
  • 日照が充分にある夏はというと、これは逆に植物プランクトンの繁殖が急激になりすぎて、必要とする栄養塩類がすぐに足らなくなっちゃうんだって。この栄養塩類というのは、海底に沈んだ生物の死骸や排泄物が分解されてできるような、まあ陸上の植物でいう肥料みたいなものなんだけど、それが大量に含まれる海水は比重が高い(つまり重い)うえに、冷たいから、夏場の温かい海面近くの海水と入れ替わる、ということがなくて、太陽光線が届かない深いところにとどまってる。
  • では秋なら大発生があるのか、というと、そうはいかない。夏の間に表層の栄養塩類を使い果たしちゃってるのが尾をひくらしい。
かくして、表層に栄養塩類が大量にあって、日照時間が長くなり初めて水温が上がり始める早春に、植物プランクトンのが存分に繁殖して、それを餌にするプランクトンが、そしてクラゲが、という具合になってるのだそうな。
というのが早春にプランクトンが多いわけだけど、それにしてもシミコクラゲの多さはただ事ではない。これにはさらなるカラクリがあるのです。

シミコクラゲ大量発生の「秘密」

クラゲにちょっと詳しい人か、このサイトをよくご覧になった方は、「シミコクラゲのポリプが一年間ずうっと、海底で春を待ってていっせいにクラゲ(メデューサ)を出すんじゃない?」とおっしゃっていただけるでしょうか。確かにそれもあるんですが、それだけではないよ、お立ち会い。タイトルをもう一度ご覧いただきたい。そう、クラゲがクラゲを産むのです。口柄の横から芽が出るように、小さなクラゲが育ってきて、それが遊離して子供のクラゲになるのです。
メデューサがプラヌラやポリプの時期をすっとばして増えるわけだから、このサイクルは早い。遊離したクラゲは1週間もしないうちに親(?)クラゲと同じサイズになって増殖を始め、その間にも親クラゲは毎日のように数個体のクラゲを出芽しつづけるわけで、もうネズミ算どころではありません。海がシミコクラゲで埋め尽くされないのが不思議なくらい。
これは水槽内でも観察できます。私も最初は知らずに、一時はビックリしましたよ。採集したクラゲをコップで飼育してると、なぜかいつのまにか頭数が増えてて、なにせ小さいクラゲだから数え間違えたのかと思ったり、よくよく見ると、クラゲの傘の中に小さなクラゲが横向きに入り込んだようになっていて、クラゲによくある事故(通称二人羽織)かと思って救出してやろうとしたり・・・こういう増え方するクラゲがいると初めて知って、しかもその実物を今観察してるんだ、と悟ったときは感激で鳥肌がたちました。こういうセンス・オブ・ワンダーがいくらでもあるのがクラゲの世界です。「えっ、クラゲってそういうのが普通じゃないの?プリッと分裂して増えるんじゃないの?」と思われた方がいたら、ちょっと悲しい。たしかにポリプの時期はそうですが、クラゲ(メデューサ)になるとそういうことはしないのが普通なんです。他にもコモチクラゲ、コモチカギノテクラゲ、ハシゴクラゲ、なんてところが同様に出芽による無性的な増殖をしますが、クラゲとしてはあくまで少数派です。

シミコクラゲのことをもう少し

シミコクラゲの名前のシミコってなんだろ、とずうっと不思議におもってました。シミコって言葉は聞いたことないし、外国語にも思い当たるものがないですからね。これ、1910年に岸上鎌吉博士が 産地をHamana Bay(浜名湖?)で、Lizzia shimikoとして新種として記載し、そのとき和名としてつけたのが「シミコクラゲ」だったようです。「しみこ」というのが、静岡県地方でのこのクラゲの呼び名だそうです。(クラゲメーリングリストjfishへの、山田真弓先生の投稿より)。しかし、どういう意味なのかまだ不明。ご存知の方おられましたらお知らせください。

シミコクラゲの飼い方

ガラス製のコップ、ブランデーグラスやコーヒーの空き瓶等で充分飼育できます。
エアポンプは不要。もしつけるなら、エアストーンをつけずに水面近くでブクブクするぐらい。
餌は孵化したばかりのブラインシュリンプを適量与えます。食べ残しはピペットで取り除いて、換水は減った分を水温、比重ともあわせた海水を補充するだけ。ろ過装置は使えません。室内なら保温の必要もありませんが、水温が低いほうが扱いやすいので暖房のかかっている部屋よりも、常に室温が低い玄関口などに置いたほうが長生きしてくれます。
「机の上で飼えるクラゲ」としては最適といえるでしょう。密閉できる容器にいれて持ち歩いてみる、というのも面白いかも。このときは空気を入れず、満水にして蓋をするようにします。小さな容器でいいのですが、過密になってくると触手が絡み合う事故が起ります。
クラゲを移すときは先端を切り落として口径を大きくしたピペットをつかいます。透明なストローなどを使うのも便利です。
どうしても長生きさせるというのは難しいかなあ。もともと1ヶ月くらいで、消えてしまうクラゲのようです。

コップで飼えるクラゲの魅力

この他にも、コップや、ちょっと大き目のビーカーで飼えるクラゲ、というのは多いのです。ミズクラゲやタコクラゲは水槽セットが最低でも1万円、マジメに飼おうとすると数万円がサイフから飛んでいきます。また、そのようなクラゲは、比較的長生きはしますが死んだらまたお店で飼ってきて、という飼育サイクルになりやすいのではないでしょうか。でもそこまでお金をかけなくてもクラゲとの付き合いは可能ですし、自力で採集したり工夫したりして飼うクラゲはたとえその一生が短くても、驚きや感動や思い出をもたらしてくれるはずです。
広い海で生きていたものを狭いコップで飼うのはかわいそう、という考え方もあるかもしれません。でも飼育して観察してみてこそわかる生命の不思議、というものもあるでしょうし、広い池で飼えば2年で20センチ以上に育つ金魚をずっと金魚鉢で飼い続けるなどというのとも違う次元のものだともおもいます。


飼育難易度は、うーん、決して飼いやすいとはいえないから中級編、というところでしょうか。でもミズクラゲだけしか飼ったことない方に、一度手元において見て頂きたい。この手の小さな、マイナーな奴を知るほど、クラゲの世界は広がります。水槽は諸事情あって持てないけど、という方にもお勧め。こういう小型のクラゲは普通のお店にはまず出回らないし、水族館でも見ることはあまり無いはず。
M-001 季節限定商品・愛知県産シミコクラゲ(5匹) 受付終了

いつものとおりのお約束ですが、クラゲは必ず最期まで、面倒をみてやってください。弱ってきても採集地以外の海に帰したりしないように。クラゲが溶けて、水に返るまで看取る、それが彼または彼女らに対する愛のカタチなのですから。もしかしたらなにかプレゼントを残してくれるかもしれませんよ。


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